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この日記について

この日記は、他のリソースから転載したものが大半です。
2005年3月以降の日記は、mixiに掲載した日記を転載した内容が中心です。一部は実験的に作成したblogに書いた内容を移植させています。
2001年の内容の一部は、勤務先のweb日記に記載したものです。
1996年〜2000年の内容の多くは、旧サイトに掲載したphoto日記を転載したものです。
1992年6月〜99年9月の日記の大部分は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラム・フランス語会議室」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。

1994年07月25日

「ここに決めちゃったらどうですか?」
 Salem の煙をふっとゆらめかせながら、Mさんが言った。
 ぼくもそうしたいと思う。見せてもらった部屋は、広さも充分だし、中も綺麗だった。家賃も手頃で、しかも Gobelins あたりの環境は抜群によかった。ムフタール市場も近く、買い物の便も文句なしだ。
「でも——」
 ぼくはコーラの残りをひといきに飲み干した。ポール・ロワイヤル大通り交差点のカフェは、午後の太陽に熱をまともに浴びていた。パラソルは気休めにもならない。
「——九月からじゃないとだめだ、というのがね……」
 これだけが唯一の問題なのだ。これさえなんとかクリアできれば、いますぐにでも契約したいくらいだ。
「それなんですけど……」
 Mさんが煙草を灰皿にこすりつける。
「主人とも話したんですが、とりあえずウチに滞在しているという証明書をおつくりすれば、滞在許可申請はできるんじゃないですか?」
 え?
 そんな……。
 初対面と大差ないというのに、そこまで……と思った。
「せっかくフランスに住むんですから、こういういいところに住んだようがいいですよ」
 ぼくにはもちろん異存はなかった。
「七、八月なら短期のアパートやウィークリー・マンションで過ごせますでしょう?」
 そうすれば、九月から晴れてこの快適な地区にすめるのだ。
「うーん、でも、ご迷惑をおかけすることは……」
「書類を作るだけなら、明日にでもできるでしょう」
 願ったりかなったりだった。夏の間だけなら、住む場所はいくらでもある。滞在許可申請さえなんとかなれば、問題はなにもないといってもよかった。
「では……恐縮ですけど、そうして頂ければ本当に助かります」
「お互いさまですよ」
 Mさんが女神さまに見えた。
 こうして、ぼくは書類上、定住先を見つけることができた。
 夏の間に住むところは、JUNKU でアノンスをいくつかチェックした。そのひとつ、一番便利そうで、しかも家賃の安かったステュディオに電話をしてみる。
 明日にでも部屋をご覧になりますか、という返事だった。
 場所はポンピドー・センターのすぐ近くだ。なんだか話しがトントン拍子に決まっていくような気がしてきた。


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